目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第1回】尺八はなぜ鳴る? 2010年1月(276)号

 毎日乙のロを1時間も吹いて来たのに、何年たっても上達しない」と悩んでいる人、いませんか? 毎日小さな努力を続けると大きな力になります。尺八もそう信じたいものです。でも「ダメな音」を吹き続けることは、ダメな音を吹き続ける「忍耐力」がつくだけです。
 「そのうち音は出てきます。まずは曲から練習しましょう」そう言われて曲だけはたくさん習得したのに、良い音は未だに出ないと悩んでいる人いませんか? そのうち音が出てしまった天才的な先生はそんなにたくさんいないのです。それに音も出ないのに「曲の練習」って何ですか?「弦はそのうち張りますから」と、音の出ないピアノを練習するようなものではないのでしょうか? 無駄です。
 「尺八は腹式呼吸でなければダメ」と聞いて腹筋を鍛えたり、息を吸うときにおなかを突き出す努力をしてる人はいませんか? 腹筋を鍛えるのは体にいいことですから努力は報われます。でも、「それで尺八が上達したか」というとそうではないですね? 腹式呼吸は確かに息を吸うとおなかが出ます。でも腹筋でおなかを突き出しても腹式呼吸にはなりません。その意味では努力は報われません。元々腹式呼吸は人間の基本性能ですから、出来ない人はいないのです。おぼれたり慌てると胸を広げる呼吸をします。あなたは慌てているだけ、普段の呼吸を思い出せないでいるのです。どうすれば普段の呼吸で演奏出来るのか、そう考えるべきなのです。
 「上級者の喉は閉じていた!」こんな写真を見て喉を閉じる努力をしている人はいませんか? これは「閉じていた」ことは写真もあるのですから本当です。でも考えてください。上級者になると喉はその写真のように必要最低限の隙間を空けるように「なってくる」のであって、もし今、あなたがそんなことが出来るようになったからといって、上級者になれるでしょうか? それにどうやって確認したらいいのでしょう? 無駄な努力です。
 努力は報われなければ嘘です。もし尺八の世界で広まっているすべてのことが本当だったら、今の尺八の平均レベルはこんなものではなかった…と思いませんか?

 尺八はなぜ鳴るのか? 正しい知識は正しい演奏法を導き出します。

内吹きと外吹き

 「カルマンの渦説」というのがありました。カルマンの渦とは気体や液体が流れているところに、棒などを立てると、棒の上下に渦ができるというものです。風の強い日に電線がピューピューと音を立てているのはこのカルマンの渦のせいです。訳のわからない定理を持ち込まれると、「なんだかすごい!」ということで信じてしまいます。でも尺八の場合、このカルマンの渦を当てはめたことは間違いでした。
 この原理を持ち込んだことで「歌口で空気が2分される」というとんでもない誤解を招いてしまいました。その亜流が「上下7:3」や「6:4」などのもっともらしい話です。それにより、歌口を口元にどう当てるべきかという基本的な考え方が全く間違ってしまったのです。
 カルマンの渦だとしたら、口から吐き出した空気は歌口の上下均等に流れることがもっとも効率がよいはずです。ところが実際には上級者においてはほとんど管のなかを空気が通らない(外吹き)か、逆に外側にほとんど出ない(内吹き)のどちらかです。これではカルマンの渦は出来そうにありません。
 実は1988年に尺八やリコーダー、パイプオルガンなどのエアリード楽器の原理を突き止めた人がいます。ごくごく簡単に言うと、歌口の外側に空気の流れを作ると、管の中の空気が引き出されます。そうなると管の中の気圧が下がるので、引き出された空気は元に戻ります。この繰り返しがエアリードとなって共鳴周波数分の繰り返しがおこる…まさにエアリードが作られるというものです。空気の流れは外側ではなく、内側の場合にもこの逆の現象でエアリードができるのです。この説明だと「内吹き」「外吹き」があることにも説明がつきます。
 空気はせまいところ(口)から放り出されると広がる性質があります。管の中に空気を送り込むことはこの性質を抑制することになりますので、管の内側に気流を作るには、外側に気流を作るよりも大きな力が必要になります。管の内側に気流を作る「内吹き」が「外吹き」に比べて効率が悪いのはこのためです。
 多くの教則本に書かれてきた「歌口で上下半々に空気が分かれる」という解説は、残念ながら無駄な努力をさせる結果となっています。

 次回は、ではどうすれば良いのか?です。お楽しみに!