目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第5回】「秘伝」?ティッシュ飛ばし 2010年5月(280)号

「何もしない」尺八訓練法

 これまで3回にわたって口の作り方などの基本的な説明をしてきました。前回は、口の形を作るには正しい呼吸の方法が必要であることも説明しました。口の形、口の中の形、呼吸の仕方、これらはすべて同時に行われるもので、どれかひとつだけを訓練しようとしても出来るものではありません。
 中でも前回述べた正しい呼吸、すなわち腹式呼吸は、生まれてこの方ひとときも休まずに訓練し続けてきた呼吸方法です。その意味では今更訓練する必要がないと言っても良いくらいです。ということは、この腹式呼吸から全てを導き出すと、実に簡単に全てが出来てしまうのです。その呼吸法を維持しながら短時間に大量に空気を口から出し入れしようとすると、尺八を吹く口の基本は出来てしまうとも言えます。
 口の中を広げようと考えることもなく当然口の中は広がります。のども広がります。そして、大量に出て行く空気を唇だけでセーブしようとすると、ブレスの向きはほぼ前方になり、口の形もできあがります。
 こういった状態なら、尺八を適当に口に持ってゆくと音はすぐに出ます。その「適当」の範囲は非常に広く、第三者が尺八を当てても簡単に音が出るものです。その範囲で最高に効率の良いところは自分で見つけることが出来ます。
「秘伝」などというような、誰も知らないような特別な訓練方法で上達するのではなく、誰もがすでに出来ている能力を組み合わせるだけで十分演奏出来るようになる。これが私が考える「何もしない」尺八訓練法です。

息の方向、量、勢いを体感する

 さて、この何もしない練習方法に少しだけ「難しい」練習を取り入れます。難しいと言っても、ティッシュを吹き飛ばすだけの練習です。
 机の上に少し引き出したティッシュの箱を置きます。2メートルくらい離れて、尺八を吹くような口でティッシュを揺らして下さい。これは息の方向と、吐き出す息の量、勢い、使う体の力を確認することが出来る、とても良い練習です。
 腹式呼吸で、口の形も出来たとしても、いったいどの程度の息を吐き出すべきか? これを伝えるのがなかなか難しいのですが、2メートル先のティッシュを動かす程度の息の量を標準に考えて良いかと思います。

 鳴らない尺八や、まだ上手く鳴らせない場合には、どうしても息の量をセーブしてしまい、それが口の中を狭くしたり、腹式呼吸以外の方法につながります。是非、2メートル先のティッシュを動かせるようになりましょう。
 また、2メートル先のティッシュに息を向けるだけの「方向コントロール」が出来るようになりましょう。息の向きは尺八を吹くときにも、今見ているティッシュの方向です。いろんな口を試してみても良いでしょう。いろいろやってみて分かることがあると思います。
 結局、尺八を吹くような口の方が楽に、確実に息がティッシュまで届きます。そのとき、息が口から出るときの「音」に注意してください。意外と「シュー」「フー」と大きな音が出るより、小さいときの方が効率良くティッシュに届くのが分かると思います。
 もしティッシュがなかなか動かないという人がいたら、是非、大声を出してみて下さい。「お腹の底から」声を出します。喉に力を入れて、喉から声を出す意識ではなく、喉はすっかりリラックスして、あたかも声帯が広がっているような「意識」で、息はあたかも胃の下あたりから送り出されて、その上に極太のパイプが口まで延びている感じです。(※)
 このような朗々とした声の出し方も尺八には大いに役立ちます。そのような感じでティッシュに息を吹きかけて下さい。口先だけの息の出し方では、ひ弱なティッシュを「そよ」とも動かすことは出来ません。


※ これは医学的でも科学的でもない、単に人間の感覚です。このように実際と感覚とは乖離していることがあり、実際には声帯は閉まっているという写真などの証拠から、声帯を閉じようとする動きもありますが、不随意筋である声帯を閉じようとして実際には喉を閉じてしまう人が最近多く見られます。
 また、「腹圧を高める」という言い方も、誤解を招いています。体内から空気が出てくるのは当然体内の気圧が外気圧より高くなったからであり、強い息を出そうとすればするほど体内の気圧は「高まる」のであって、先に高めておくのではありません。
 2メートル先のティッシュを吹き飛ばすだけの「腹圧」があれば十分で、通常の健康体の人なら十分持ち合わせているはずです。それ以上に圧力が高くなった感じは、喉などを絞めて空気が出ないようにしないと味わえません。これは間違いですね。