目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第7回】技術編1 メリカリせずにメリカリする 2010年7月(282)号

メリはメルな

 一流の演奏家の演奏を見ると、あまり首を動かしていないことに気がついた方はいませんか? ところがあなたはどうでしょう? 「ツのメリ」などでは思いっきり下を向いて顎でメッていませんか? 確かに師匠から「高い、もっとメッて!」と言われてきました。なのに演奏家はほとんどメリカリしません。
 「もっとメッて!」とはどういう意味なのでしょう? 考えたことはありますか?
 「メリカリ」は尺八の一大特徴として紹介されるテクニックのひとつです。顎と尺八の角度を変えることで歌口の開口面積が変化して音程が上下する現象です。
 「簡単な曲から演奏しましょう」「最初はメリカリのない曲からです」この場合の「メリカリ」は何を言っているでしょう?
 さらに、「ちょっと難しいですがメリを含む曲を練習しましょう」「よく聞いて下さい。その音はもっとメラなければいけません」「高いですよ。もっとメッて!」あなたはこう指導されて、現在のように楽譜上の「メリ」という文字に条件反射して顎を引くようになったのです。
 話を整理しましょう。
 もう一度言いますが、「メリカリ」は顎と角度の調整で歌口の開口面積を調整して音程と音質を変化させる方法です。
 先の会話に使われている「メリカリ」はある音の高さを、今持っている尺八で発音するための運指を表したものです。でも、本来は音の高さを表したものです。「ツのメリ」は琴古では通常の「ツ」より「1音低い音」、都山では「半音低い音」という意味です。
 その音程を出すためには「顎だけでメル」「指の操作だけで出す」「両方を組み合わせて出す」という3種類あるのですが、その確認と練習は誰もしていませんね?

訓練すべきは?

 あなたは、指だけでその音を出す訓練をしないまま、中半端な指の閉じ方のまま、補助的に顎のメリカリを加えて、何とか必要な音程を出してきました。その意味では「尺八の機能を上手く使った」とも言えるでしょう。そのように演奏してきた師匠さんたちが、またそのように教えている…という循環が今の尺八の世界です。つまりせっかくの「特徴」を、単に「場当たり的な便利な方法」としか考えていないということです。
 もうお気づきと思いますが、記譜上の「メリ」(都山では半角文字)などは、基本的には顎メリを使わずに指だけで出す訓練をまず行うべきなのです。これは半日もあれば誰でも出来るようになります。
 上級者は指だけでその音程を出せるように訓練しているので顎の動きが少ないのです。「顎のメリカリ」という、まだ使っていない機能を音楽的な表現として使うのですから、動きが少ないという見かけ上の動作の美しさだけではなく、表現の幅も広いということなのです。

メリはカレ

 これも本当です。たとえば「リのメリ」(琴古)、「ハの半音」(都山)では指孔を少し大きく開けて顎をメッた方が音が大きい…と思っている方がいるかもしれませんが、逆です。指孔を極力小さくして歌口開口面積を広げた方が音は大きいのです。
 これは指孔であれ歌口であれ、開口面積は大きい方が音は大きいからであり、歌口に比べて小さな指孔を多少広げて、歌口の開口部を狭くするより、指孔をほぼ閉じても歌口を開けた方がトータルで開口面積が大きくなるのです。
 似たような話で、「甲音は唇を緊張させて、歌口に近づけると出しやすい」という困った話があります。これは「メッて甲を出しなさい」と言っているのと同じです。つまり、これでは甲音のピッチは低くなって当たりまえです。乙と同じ状態で高い声を出すときのように、ブレスの量を増やす方法で出すのが基本です。
 メッて低くなった音を「この尺八は甲音が低い」と言っている人が多いですが、それは低く吹いているだけです。

「特徴」と「癖」は紙一重

 知らずにやっていることは果たして「特徴」と言えるのでしょうか? 理解して自分の意志として使える機能を「特徴」と言うのではないでしょうか?
 知らずにやっていること、それは「癖」とも言います。癖を正当化すると、その先には矛盾しか残らず、教えることも無くなってしまいます。
 邦楽を活性化したいなら、この「癖と特徴」を「事業仕分け」することから始めたらいかがでしょう?