目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第9回】技術編3 「ピ」とはなんぞや 2010年9月(284)号

上手の条件

 前回は「へたくその条件」を提示しました。今回は「上手の条件」です。
 上達の早道を考えます。それは「下手くそに聞こえない」演奏の仕方であるはずですから、先月号をよく読み返して、そうならないように努力します。と言ってもなかなか難しいですね。
 今日はひとつアイディアを提起したいと思います。
 オクターブの跳躍の練習をしましょう。この場合、「乙のレの後に甲のレが鳴らせた」だけではいけません。今鳴らしている「乙のレ」のオクターブ上の音を想像することから始めましょう。
 実際に声を出してみるのは効果的です。その声の出し方と同じように出しましょう。
 声では高い方は少し上向きにしたくなるはずです。ところが尺八で単純に甲を出そうとすると、歌口に口を近づける人があまりにも多いです。それでは「メッて」吹いているのと同じことで、音は出ていますが、低くなるのです。その状態で「この尺八は甲が低い」などという人の楽器を私は修理しません。だいたいはその人を修理することになります。
 つまり、鳴らすだけではだめで、正しいオクターブ上の音を想像して、その音程になるように吹いて下さい。まずこうした、オクターブの音程を正しく出す吹き方が、全ての「基準」となります。

使いやすい「大甲のロ」

 「ピ」(都山)、「ハ」(琴古)について。確かに教則本を見ると、ピは裏孔だけ全開でその他を閉じる下図のような指遣いであり、しかもこの指遣いで「少し顎を引く」と書かれています。おそらくプロの演奏家で正直にこのままの指遣いで演奏している人はいないでしょう。なのに、なぜこのような指遣いが今でもまかり通っているのでしょう? 不思議です。
 まず、「この指遣いで出た音がピである」という考え方・教え方が間違っています。本当は「この音の高さを出す方法としてこの指遣いがある」と考えるべきで、「音の高さによっては様々な指遣いがある」でなければならないはずです。では、この問題にした「ピ」とはどんな音高であるべきなのでしょう?
 1尺8寸のピは五線譜上では譜漓の通りであるはずです。これはドレミのレであり、Dという音の高さです。1尺8寸の一番低い音「乙のロ」もDです。そのオクターブ上が「甲のロ」であり、ピは甲のロのさらにオクターブ上の音です。その意味では本当なら「大甲のロ」と言うべき音です。
 つまり、尺八の全ての孔を閉じたまま、息の調整だけでこの3つのオクターブ関係は吹き分けられるのです。もし、この全ての孔を閉じたまま吹き分けが出来る人なら、一番上のDを鳴らしたまま、第5孔を開けるとどうなるか、はっきり分かるはずです。半音には届かないものの、それに近いほど高くなります。この状態で正しい音高に近づけるには顎で相当メル必要があり、音量もそれなりに小さくする必要があります。
 ということで、「ピ」とはその人の「メル」という技巧を伴って成立する音なので、楽器の調整で正しい音に出来るものではないのです。多くの演奏家はフォルテでは第5孔をほとんど閉じています。そのまま音量を小さくするに従って第5孔を少しずつ開けながら、しかもメリながら、消えるまでをコントロールしているはずです。そういったテクニックの一部分を切り、「ピとは…」と書いている教則本はずいぶん大雑把なものだなと思います。
 都山にも琴古にもこの指遣いがあるというのは、おそらく、この音高に小さな音がほしかったからでしょう。でも、それがこの音高のすべてではないということをご理解ください。
 本当なら、【孔を全部閉じた状態を「ロ」と言い、ロには「乙」「甲」「大甲」があり、「甲」と「大甲」の場合には、音程を保ちつつ第5孔を開けながら小さな音を出すことが出来る】という程度に書くべきなのではないでしょうか?
 ここで「甲」の場合も入れましたが、実はピにはそのオクターブ下の「甲のロ」の高さでも、この手法を使うことは少なくありません。その代表例が『春の海』の譜滷右の部分です。何ともばたばたしますが、これも演奏家は甲のロに当たる部分は「ピ」と同じ指遣いのままオクターブ下を出しています(譜Aの左)。いわば「乙のピ」とでも言った方が良いでしょうか?これによりメリカリの動作が少なくなり、スムーズな演奏を可能にしているのです。