目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第10回】人間の感覚と実際 2010年10月(285)号

嘘から生まれるもの

 「喉を広げて」と私は今でも言っています。でも、実際には声帯は狭くなっているそうです。だからといって「声帯をなるべく狭くして」と言われても困ってしまいます。
 最近、「口腔内の容積を変えても音色は変わらない、ということが実験で証明された」と、ある人から聞きました。その結果をどう反映させるのかは分かりませんが、今のところ「口の中を広げると音が良くなる、という嘘はついてダメだ」ということのようです。
 私も「口から体のなかに尺八と同じ長さのパイプを作るように」などと言うこともあります。それらは確かに「嘘」です。出来ませんからね。「体の中に共鳴させるように」、これも肺は空洞ではないし、吸音材のような体の中で本当に共鳴するのか?と思いつつ、そう言うと上手く吹けたりする人がいるのでつく「嘘」なのです。
 「体の中に共鳴させて」という言葉に嘘があっても、今までに習ってきた理科程度の知識から、「何となく」その音が共鳴しそうな体を作ろうとすることが、出そうとする音をより上手く出すことに役立っていることは確かなのです。それが実際に「共鳴か?」というと、多分違うでしょう?
 演奏家は確かに口の中の容積を様々に変化させています。体の中も同じです。それは音楽的な表現に必要だからやっているのです。というより、自然とそうなってしまうのです。それが医学的、科学的に何がどう作用しているかなどを知っているわけではありません。それらの行為が実際には何が何にどう作用しているのかを研究してくれることは大歓迎です。でも、その結果を「嘘を言うな」と牙をむくだけに使うとしたら、それは間違いでしょうね。

実践――声を出すと

 先日、3人に全く同じ指導をしてみました。全員尺八を始めて1年から2年だそうです。ひとりはカッパのような口で、ひとりは口を突き出して、ひとりは口元は非常に良い感じですが、口の中が「へ」でした。共通して、胸の辺りに思いっきり力を入れて反っくり返るようにたくさんの息を吸い込みます。
 彼らに私が尺八の筒音を吹いて聞かせて、「この音の高さの声を出して」と要求します。結構低い声です。「この声を出そうと思って息を吸ってみて」と加えました。たまたまこの3人は、これで胸を大きく動かして息を吸うことはしなくなりました。
 次に尺八で音を出させるのですが、尺八を吹くと元通りになってしまいます。この場合には尺八を持たせずに、もう一度呼吸の練習だけさせて、口は鏡を見て尺八を吹く「まね」をしてもらいます。ある程度口の形が出来たら、私が尺八をもって口元に当ててやります。これでだいたい今まで経験したことのない音が出るので、笑ってしまう人がいたり、「こんな音が出るんだ」などと話を始める人が多いです。
 何度もやってもらって、今度は自分で尺八を構えてもらいます。またもとに戻るのですが、今度は先ほど良い音が出たことを覚えているので、どうしたら良いのかを思い出せます。
 次に、いろいろな音の高さを吹いてもらいます、その中で比較的良い音で鳴っている音を見つけます。その比較的良くなっている音を声で出させます。次に、その下の音を声で出させます。「尺八を吹くときも同じなので、下の音に移るときに下の声を出すように体を変えて」「共鳴させようとして」「声帯を広げる感じ」「口の中に音を響かせて」など、嘘もいろいろです。
 これで、今回は3人ともめでたく、乙のロまでなかなかたくましい良い音で鳴るようになりました。
 最後に自分がどう変わったかをいろいろ観察してもらいます。
 「低い声を出そうとしたら肩に力を入れなくなった」
 「知らないうちにお腹で息をしている」
 「今までと全然違う口の形になっている」
 「楽になった」
 「体から音が出ているような感じになった」
 「肩に力を入れるな」「腹式呼吸で」などと言わなくても、自然とそうなるなら「嘘も方便」で良いではないですか?