目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第16回】基礎知識編3 プロの吹き方の合理的理由 2011年4月(291)号

 自分の楽器を上級者が吹くとピッチが高いという経験をしたことはありませんか? これには理由があるのです。

演奏家の尺八と吹き方

 尺八の内部には「疎密波」という振動が起きていることは説明しました。その疎密波は両端が大きく振動し、中間部分は振動が小さくなっています。つまり、開けている指孔のところに向かって振動の大きな部分があり、もう一方は歌口です。
 音のエネルギーは指孔と歌口から放出されますから、指孔は大きいほど放出されるエネルギーは大きく、同様に歌口も開口面積が広い方が放出されるエネルギーは大きくなります。
 甲のロのカリは突出して大きな音が出ます。これはピッチを上げるために頑張って吹いているということもありますが、歌口開口面積を広くしたことも要因です。
 また、せっかく7孔に改造したのに、小指の孔を開ける音が意外と小さかったとがっかりした人もいるでしょう。これは他の指孔よりも小さな孔なので、放出される音エネルギーが小さいためです。
 このように、指孔も歌口開口面積も大きい方が放出される音エネルギーは大きくなります。ただし、歌口開口面積はやたらと大きくは出来ません。甲のロのカリを例にとっても分かるとおり、あまり開口面積を広くする吹き方はコントロールがしづらくなります。従ってコントロールが出来る範囲で最大の開口面積を求めるのが演奏家なのです。
 開口面積は広くなりますから、同じ長さの尺八ならピッチが高くなります。自分の尺八を上級者が吹くとピッチが高くなるのは、このような理由によります。演奏家の楽器は長いか、または内径的に低めに(丁度良く)なるような物を選んでいます。

吹き方が正しいということは

 こうしたプロ演奏家と製作者の共同作業により得られた技術や情報で、尺八は少しずつ進化しています。進化した尺八に初心者が吹き方を学び、専門家が生まれ、また楽器を進化させます。いつしか、その進化はピークを迎え、安定期を迎えるでしょう。
 ここに古いタイプの尺八と私の作る尺八を比較した写真を掲載します。見るからに新しい物は長く、指孔が下の方にあります。何故このように変化したのでしょう。
 プロの演奏は一所懸命とか、頑張っているとか、力んでいるという様子がないのに、実に朗々と鳴り響きます。こういう鳴り方を「上鳴り」などと呼んでいる人もいるようですが、要するに歌口からも十分に音エネルギーを放出する吹き方のことです。つまり、比較的歌口開口面積を大きく取る吹き方です。
 こうして作られた尺八を「鳴らしやすいから」という理由で、歌口と口を近づけて吹く、つまり歌口開口面積を狭くすることは、ピッチを低くすることになりますから、全長にある一定の長さのパイプを継ぎ足したのと同じことになります。
 高い音(短いパイプ)でも継ぎ足しの長さは一定ですから、高い音になるにつれてピッチが低くなる割合は大きくなります。単に低くなるというのではなく、高くなるほどピッチが低くなるというように、全体のピッチのバランスまで崩れてしまいます。
 逆に考えれば、専門家が使う尺八をピッチが正しくなるように吹く練習が出来れば、あなたの「吹き方」が正しくなるとも言えるのです。

「癖」と「特徴」は紙一重

 絶対の自信を持って世に送り出したオリジナルタイプの尺八は「99・9%が素人の尺八界には不要」とまで言われ、確かにピッチ修正を余儀なくされる悔しい時代が続きました。でも現在、修正を言ってくる人は本当に少なくなりました。
 別にプロが増えた訳でもありません。考えてみれば「素人用ピッチのフルート」なんて無いわけで、プロが吹いても素人が吹いても同じ、いや、同じように吹ける指導こそが重要なのであり、下手くそに合わせた尺八を世に送り出すことを続けることは、将来的になんの展望もありません。
 尺八のピッチが人それぞれなのは「吹く人それぞれに癖があるからだ」などと片付けるのは簡単です。癖とわかっているなら直そうではないですか。癖と特徴は紙一重ですが全く違うものです。