目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第20回】基礎知識編6 中心を見つける 2011年8月(295)号

女性には無理?

 尺八の吹き方は「強くて大きな音にかたよりがち」先月号でそう指摘し、図で紹介しました。もっと音楽を幅広く捕らえることで、多くの人に多くの可能性が残されていることを伝えようとしました。そんな矢先、同じ号の「編集長の見たり聞いたり思ったり」に気になることが書かれていました。「女性に尺八は無理」という発言をコンクールの審査員がしたというものです。ネット上でもかなり問題視されているようで、「きれいに吹くのは雄々(おお)しく吹けないからだ」との発言があったと報告されています。
 丁度その頃、私はこのコーナーで、強い音ばかりで吹くことを、「上がって絶叫する下手な役者」を引き合いに批判的に書いていたところでした。「強く吹くのは弱く吹けないからだ」と言ってしまえば、ただの喧嘩ですが、要するに強いだけでも弱いだけでも駄目で、音楽は全てなのです。その中心を見つけることで様々な可能性が生まれ、上達の早道であることを言いたかったのですが、まさか人を審査する立場の人から、このような暴言が発せられるとは思いもよりませんでした。
 「もう少し荒々しさが表現できると良いですね」などといった発言なら良かったでしょう。でも、「雄々しくないのはあなたが女だから」つまり「女性には尺八は無理」という短絡は、「知恵を出さないやつは助けてやらない」と発言した某大臣と同じではないでしょうか。
 東京藝術大学では「7孔尺八での受験は出来ません」と赤文字で明記したように、このコンクールでも「女性の尺八奏者は参加できません」と是非わかりやすく赤文字で明記してほしいものです。……と、怒りはちょっと納めて、本題です。

「雄々しさ」と「女々しさ」

 「強い」と「弱い」を比較すると、「強い」が良いように思えますね。しかし、音楽や日常ではそれらに良し悪しは無く、最適な状態として選択されます。「勇ましく、勇壮である」を「雄々しい」と言いますが、「優しく、繊細である」を「女々しい」とは言いません。「雄々しい」と「女々しい」では、後者を良い表現として使うことはないのです。つまり、男尊女卑前提の言葉ということですね(ちょっとまだ怒りが…)。
 音楽や日常では、「弱い」とか、「雄々しくない」という表現が、劣っていることを表しているのではなく、その時々に最適な表現として選択されます。「勇壮で、勇ましい」音楽ばかりを聴くわけではなく「優しく、柔らかい」音楽も好まれます。でも、「強く吹きすぎです」を「もっと弱く」とか「もっと女々しく」というと、なんだか「軟弱で良くない」と感じてしまいます。
 そんなこともあり、よく考えないで練習していると「強くて大きな音」しか出さなくなります。そういったイメージが「尺八らしさ」として、人を審査する人にまで蔓延しているとすれば、「尺八は雄々しく、このまま消滅せよ!」と言われているような気さえしてしまいます。

普通に息を吸って

 まず、「尺八は鳴りづらいからそれなりの力が必要」といった考え方は捨てて下さい。もうひとつ、「思いっきり息を吸っておかないと、一節も持たない」という考え方も捨てましょう。
 例えば、久しぶりに会った人に「ど〜〜も〜〜お久しぶりですね〜〜〜おげんきでしたか〜〜〜」などと言う場合、普通の呼吸で一息で、それもかなり大きな声で言えてしまいます。その程度の長さの音は特別に息を吸わなくても、普段の呼吸の範囲で出すことが出来ます。まず、このことを記憶して下さい(思い出してください)。そして、普段話をしている時に、どんな呼吸をしているか?自分で探ってみて下さい。その呼吸と同じ方法で、ちゃんと鳴ります。
 私のところでは、私が尺八を吹き、その前で「尺八を構えずにこの尺八の音と同じようなエネルギー感で声を出して」もらいます。それが出来たら(普通出来ますよね)私が簡単な曲を演奏、それに合わせて歌うか、歌うのが苦手なら、ただ声を出し続けてもらいます。つまり、私と同じだけ「呼吸が持つ」ことを分かってもらいます。これは「自分の肺活量が少ない」などということは決してないことを認識してもらうためです。
 そして、尺八を吹いてもらうのですが、その時、人によってはそれまでの呼吸方法と違う方法で息を吸う人がいます。それは「普通」と違っていることを理解してもらわなければなりません。尺八を構えても普通に息が吸えたら、初めて音を出してもらいます。そうすると、あら不思議、声と同じだけ音は続きます。お話ししながらお腹に手を当ててもらうなどすれば、普通の呼吸の感覚が分かるでしょう。
 普段の会話程度のエネルギーしかいらないことが分かれば、あなたの「普通」「中心」が得られたことになります。口の形や口腔内の形は尺八の音に大きな影響を与えます。でも、その形は実は息を吸うときにすでに決まってしまいます。良い呼吸法を手に入れることは、全てを良い方向に導きます。これに努力はいりません。普段を思い出すだけで良いのです。もう一度おさらいをしていきましょう。