目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第22回】基礎的練習方法2 音が消える時、生まれる時 2011年10月(297)号

 先月号ではテンポを決めて音を出す練習法を紹介しました。その音は、図で表すと羊羹のように長四角で、いかにもつまらなそうな音ですね。抑揚もビブラートも何も無い音は、実は音楽の基本中の基本です。この四角い音を音楽の内容に合わせて、そして自分の個性に沿って加工していくのが音楽です。
 はじめからおかしな形の音しか出せないようでは音楽になりません。ある程度経験を積んできた方も、是非「羊羹のような音」を練習してください、必ずレベルアップにつながります。
 ビブラートも知らないうちに掛けているようではいけません。ノンビブラートで演奏することも出来なくてはなりません。

「普通」から「無」に

 さて、羊羹のような音が出せたら、少し加工してみます。普通に出している音量をゼロにする練習と、ゼロから普通の音にする練習です。
 ここでも声を参考にします。普通に出している声を小さくして、声を無くしてみてください。小さくするに従って声の成分に息の音が混じり、ハスキーな声になり、声と息の分量が逆転し、最後は息の音だけになります。
 その場合、身体の中では何が起こっているかというと、声帯を働かせる力が先に緩みはじめ、声の質が柔らかくなります。その後を追うように息の量が減って行き、声が無くなっても息だけが残った状態があり、そして息も消えて行きます。ハスキーな声は息を無駄遣いしていますから、声の割に息が消費されて苦しい感じがあるかも知れません。
 尺八も同じです。
 普通に鳴らしているところから、先に唇のノズルを緊張させている全ての身体の部位の緊張が和らいで行き、音質が柔らかく変化して行きます。音量的にはこの時点で余り変化しませんが、音が柔らかくなることで「弱い」と感じる、いわゆるp(ピアノ)に変化して行きます。
 その後、柔らかさが増し(堅さが減り)、どんどんpになり、最後は音が無くなります。ノズルを細くして空気の束を細めて小さくしようと考える人も少なくないですが、これは音量を小さくするに従って緊張感と強さが増してしまい、あまり「弱くなった」という印象にはなりません。もちろん音量が小さくても緊張感のある音は必要ですので、「やってはいけない」ということではありません。自然に音を消して行く場合には、先に音質を和らげてから、消して行く方法もあることを知っておいて損はありません。

「無」から「普通」に

 音が無いところから普通の音になるまでの経緯はこの逆です。練習方法としては次のように行うのが良いでしょう。
 普通に鳴っているノズルの状態よりも少し大きめにノズルを開けます。息を出すと「ハー」という感じです。この状態から、ノズルを少しずつ普通の状態になるように閉じて行きます。息の中にかすかに音が現れるのが確認できたら、貴方のノズルの作り方は正しいと言えます。
 この音が生まれるところを何度も体感しましょう。そして、そのあたりを自由にコントロールできるようになると、実は最大の音量レベルも上がって行きます。
 いきなり音が出てしまう人は「音が出る」という唇の状態を、かなり無理矢理作り込んできた人でしょう。音が出るのだから良いと言えば良いのですが、音楽に重要なのは音が無いところから音があるところになめらかに移行できるということです。この部分をどれほど細かくコントロールできるかが「上手いと下手」を決めているといっても過言ではありません。
 「出てしまう」人は、この辺の口の作り方を過去にも写真入りで紹介していますので、是非参考にしてください。

ゼロを手に入れよう!

 最初から音が出てしまう人は、その「出てしまった」音が貴方の一番の弱音ということになります。仮にその音のレベルが1だとします。でも、貴方は10という最高レベルまで出せるとすると、ダイナミクスレンジは10/1=10となります。
 しかし、音のない状態からなめらかに音を出すことが出来る人は、分母が0になり、ダイナミクスレンジは無限大ということになり、貴方は遠く及ばないのです。最大レベル5までしか出せなくても、最初の音を0・1に出来るだけでダイナミクスレンジは50になるのです。
 さあ、音が生まれる瞬間をとらえて、そして是非ゼロを手に入れて下さい。