目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第23回】基礎的練習方法3 息を吸うための口で吹く 2011年11月(298)号

なぜ口の中を広げられない?

 尺八を吹く場合、「口の中を大きく広げろ」「卵を一つ口に入れたように」などと言われていますが、これがなかなか出来ません。何故出来ないかをよく観察すると、出来ないような口や舌の状態を作ってから尺八を当てている人がほとんどだからです。
 尺八を吹いている最中の口の中は、ほとんど「お」と発音する時と同じです。従って、演奏中に声を出すと「おー」と言うような声になります。ところが多くの人は尺八を口に当てる直前に舌を前にせり出し、「え」「い」のような状態にしています。これは口の形を整えようとしてやっているようですが、この状態では口の中を広げることは出来ません。それは「え」「い」と言いながら「口の中を広げろ」と言われているような物ですから、無理なのです。

息を深く大きく吸うための口

 尺八を鳴らすことだけを考えてしまいがちですが、息ははき出す前に吸い込まなければなりませんし、鳴らした後にも吸い込まなければなりません。単に音を出すだけの練習では、息を吸い終わるまでの時間を気にすることなく、鼻からでも、狭い口のノズルからでも時間を掛けて吸い込むことが出来ますが、実際の演奏では息を吸うための時間には制約があります。
 効率よく息を「吸うこと」は吹くことよりも重要なことです。
 吹くための口は「吸うための口」でなければなりません。なるべく大量にそして素早く息を吸うには、それこそくしゃみをする前の息の吸い方が理想かも知れません。過激な運動の後、テーブルに両手をついて荒く息をする時もいい感じです。良い声の人の真似をする時の状態もいいですね。
 このように、吹いてからどうにかするのではなく、吹く前にどうにかしておかなければなりません。でも、どちらかというと「だらーっ」と休んでいるときに近いので、舌に力を入れて顔を変形させるような苦労は要りません。口の中を広げることが「難しい」と感じるのは、口の中を広げることが出来ない状態にする「無駄な訓練」をして来た人が感じることで、実は「広げる」のではなく「広い」のが自然なのです。

講習会「首振り3年を3分で」

 余談ですが、先日「首振り3年を3分で」という、全く尺八を経験したことがない人を対象に、尺八を浪々と鳴らすところまでを経験して頂くという講習会をしました。やることは実に簡単です、椅子に寝るようにゆったり座って頂き、普段どのような呼吸で生活しているかを意識してもらうだけ。そして、その息を顔の前に差し出した指をろうそくと見立てて消す真似をしてもらうだけです。
 その口が出来れば、私が尺八を当ててあげるだけで音は簡単に、そしてとてもいい音で鳴ってくれます。鳴りさえすれば、後は何処に尺八を当てたかを記憶してもらい、自分で尺八を持って頂けばもう終了です。
 余計な挨拶や冗談を無くせば、この間3分は決して大げさではありません。その後は「尺八の音を自分の声と思って、大きな声を出すように息を使います」と言うだけで大きな音を出すことが出来るようになります。
 その中で、最初は音が出ていたのに、大きな音を出す練習の時になかなか出来ない人がふたりいました。笛と尺八の経験者でした。楽器を口に当てずにいろいろやっている時には、みんなと同じなのですが、口に尺八を当てようとすると、口の状態が全く変わってしまいます。要するに普段練習している口にしてしまうのです。
 その日の結果は、このふたりが最後まで良い音を出すことが出来ませんでした。他の人は「こんなに簡単に鳴っちゃうの?」というような意見で、かなり拍子抜けのようでした。

「笹吹き」の概念を今こそ

 私を頼ってくる人は、「まず簡単な曲から練習して行きましょう。音はそのうち出るようになります」と指導されて、長い間やってきたのに良い音が出せないという人がほとんどです。YouTubeなどの尺八演奏を聴いてみると、まるでスイッチの「ON」「OFF」のように、音が「出る」「出ない」の二値しか無く、その音に様々なビブラートや揺りを交えて上手さを演出しているだけで、音の出る瞬間や消すところ、ましてや息の吸い方にはなんの配慮も感じられない演奏が多くて驚きます。
 古典奏法の中に「笹吹き」という言葉がありますが、これは「音のないところから、音が生まれ大きくなり、また無音に帰って行く」という、音の基本を図形として伝えようとしたものでしょう(図)。今、この「笹吹き」の概念が忘れ去られようとしているように思います。そろそろ尺八についての考え方も変えていきませんか?