目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第28回】どっちが良い?−2 歌口の深さ 2012年4月(303)号

浅いのと深いのと

 「歌口は浅ければ浅いほど良い」さらに言葉がふくらんで「盛り上がっているくらいが丁度良い」などと、あり得ないようなことを言って、浅い歌口を推奨していた人がいました。「〜ければ〜ほど良い」というような話には、必ず問題や間違いが存在しています。「浅ければ浅いほど」の行き着くところは、つまり最大値はフラット、引っ込んでも盛り上がってもいない状態ですから、製作は非常に簡単です。
 作ってみましたが、とても吹きづらく、誰にも満足頂けないでしょう。盛り上げてしまうと管の中と外の区別が曖昧になるので、エアリードが起きなくなり、もはや音は出ません。
 じゃあ、「深ければ深いほど」というのはどうでしょう? 最大値は管尻まで届くようなスリットでしょうけれども、これでは管楽器というパイプにならないので、エアリードが起きる範囲の深さということでしょう。
 このことから考えると、フラットからエアリードを作ることが出来る深さまでの間に一番良いところがある、と予想できますね。

リサーチ

 実際、その通りです。その深さは、顎あたりの角度や開口部の大きさや形状、そしてその人が求めている音質の中心値と密接な関係があります。
 同じ長さのパイプで、顎あたりの角度や形状等を同じにしておいた場合に、歌口だけの深さを変えると、歌口の深さで得られていた開口面積が変化します。従って、浅いと開口面積が小さくなるのでピッチが低くなり、深くすると高くなります。
 今度は歌口の深さを同じにしておいて、顎あたりの角度を変えた場合、角度をきつくすると開口部と唇の密着の度合いが増し、その分開口部が狭くなり、ピッチが低くなります(図@)。逆に角度を浅くすると開口部と唇の密着度が薄くなり、ピッチが高くなります(図A)。何となく角度がきつくなると、見た目にカリ吹きのように見えるのでピッチが高くなるような気がしますが、実際には逆です。
 これらの変化に伴い、ピッチだけではなく、音量と音質も変化します。同じピッチでも歌口が深くて顎あたりの角度がきついものと、歌口が浅くて、顎あたりの角度の浅いものとでは音質が違います。人それぞれの肉体的条件や求めている音質や好みが違うので、どれが良いということはなかなか言えません。しかし、「浅ければ浅いほど良い。深いほど良い」ということではなく、丁度良いところを見つけることが重要な訳です。
 私は単純に音楽として、音として、楽器として、人間の感覚として、自分も含めた多くの人の意見を参考に、どの辺が中心なのかを探ってきました。長い間のリサーチから、およそ図@のようなものということを見出しました。

楽器のコンセプト

 歌口は顎あたりの角度や開口部の形、そして深さが密接な関係を持って決められていますから「〜ければ〜ほど良い」というような単純なものでもなく、同じ深さでもその他の形状の違いで、全く違った作用をします。尺八はすでにどのようなコンセプトを持った作り方なのか?を問われる時代になっているのです。
 尺八が何故鳴るのか?はっきり分かったのは1988年頃です。それ以前の尺八は発音原理もはっきりしないまま、「昔からある形」を模倣してきました。演奏家もそれに慣れることを「練習」「修行」として来ました。歌口やエアリードの研究をすると、それまでの歌口が決してベストではないことが分かります。
 そういった研究のもとに作られた歌口は、これまでのものとはずいぶん形状が違いますし、それまでの歌口に合わせてきた吹き方では効果も出ません。その歌口の一点だけを見つめて「深すぎる」などと否定することは、尺八の発展を妨げるものでしかありません。
 実際に、多くの尺八を見ていると、この10年で歌口の形はおおよそ図@のように変わりました。それは、こういった研究の成果を評価し、演奏家が製作者に同じように修正を求めたり、また製作者も良いものは取り入れるという姿勢の反映だろうと思います。
 300年以上も前に構造を完成させたと言われるバイオリンに比べて、尺八という楽器の研究や実験は、今まさに始まったばかりと言っても良いでしょう。