目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第29回】どっちが良い?−3 古い尺八と新しい尺八 2012年5月(304)号

ストラディバリウス

 ストラディバリウスというバイオリンの名器の名前は、一度は聞いたことがあるでしょう。300年前にストラディバリという人が作ったバイオリンで、その設計は今でもストラドモデルとしてコピーされているくらい、完成度の高いものでした。300年の時を経た今が木の状態が最高と言われていて、家を売ってまで購入した演奏家辻久子さんの話や、千住真理子さんの話は有名です。千住さんは、フランスのデュラン家からスイスの富豪に渡った楽器が演奏家のみを対象に売られるという話を聞き、お兄さんの明さん(作曲家)が奔走して数億円を集めたということです。現在、日本音楽財団が購入した12億7千万円が最高額と言われています。そして、この高額なストラディバリウスが日本にはたくさんあります。
 さて、尺八もストラディバリウスのように、古い物は楽器としての性能に価値はあるのでしょうか?

性能

 西洋クラシック音楽は作曲家、演奏家、指揮者などの分業が進んだことで、他の民族音楽とは異質の発展をとげました。楽器は作曲家と演奏家の要求で改良され、出来ること出来ないことをはっきりさせるルールも作られました。こういった世界では楽器に求められる「性能」がはっきりとしています。この「性能」を引き出すための「設計」において、ストラディバリウスは300年も前に「完成」させたのです。
 尺八はどうでしょうか?
 黒沢琴古がまとめる以前の本曲などは、竹の筒の節を抜いただけの尺八のなかに、その本曲の味わいを十分に引き出すものがあると言われています。この場合の「性能」と、黒沢琴古以降の琴古流古典本曲の味わいを引き出すための「性能」、そして宮城新曲や最近の現代曲を演奏するための「性能」はそれぞれに違っています。
 それ以外にも「都山流」と「琴古流」の違い等もあり、新しい演奏スタイルもどんどん出てきています。これらのスタイルに適応した尺八もどんどん出てきます。尺八は全ての時代の音楽を残したまま、どんどん新しい物が出てきます。
 つまりまだまだ発展途上なのです。従ってストラディバリウスのような尺八は未だに出ていないといってよいのです。
 ただし、古い時代の演奏スタイルを継承するというような目的に合致した尺八は見つけることが出来るかも知れません。反面、新しいスタイルの演奏を模索している演奏家に応えてくれるような尺八は、古い物には無いと考えるべきでしょう。新しいスタイルの演奏は、尺八制作者と共に開発して行くべきものです。
 もしも将来、ストラディバリウスのように評価される尺八が現れるとしたら、演奏家と制作者が協力して作り上げた尺八であるはずです。そのような努力を続けている工房にこそ、尺八のストラディバリウスが存在する可能性がある訳です。

尺八オークション

 近年ヤフーオークション等で古い尺八を手に入れて、改造を依頼して来る方が少なくありません。「もしかしたら名器が手に入るかも知れない」という淡い期待で落札したものの、音すら出ないということで改造を依頼してきます。せっかく1万円などで手に入れても、改作には最低5万円、基本的な構造が整っていないと、新品を買うのと余り変わらない改造費が必要になります。
 もしも使える物、高性能を求めるなら、こういった手に入れ方はおすすめしません。自分で吹いて購入できる工房や販売店、中古楽器取扱店で求めましょう。
 自分で演奏して決める自信がない方は、制作者に吹いてもらいましょう、ちゃんとした演奏が出来る作者からはちゃんとした尺八が作られます。良い尺八かどうかは作者の演奏を聴いて決めましょう。

寿命

 さて、バイオリンが300年の時を経て木質が最高の状態となり、ストラディバリウスは今輝いています。尺八の場合はどうでしょう?
 通常、管楽器の寿命は短く、洋楽器(木管)では10年程度で響きが悪くなってくるということです。洋楽器の木管は内部が木のままですから、オイルを塗り込んで響きを良くして行き、最高を迎え、そしてまた朽ちていくようです。尺八は内部を漆で固めてありますから、西洋楽器よりも長持ちします。逆にその分、竹の質の変化による音質変化もまた少ないということにもなります。
 いずれにしても100年も前の尺八は技術的にも、材質の点においても、楽器としての性能を期待することは出来ません。