目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第32回】技術編6 歌口から考える尺八 2012年8月(307)号

歌口各部位の関係

●歌口の深さ(A)と顎あたりの高さ(角度=B)の関係 
 尺八の歌口の深さについて、「4ミリが最適」「5ミリ程度が良い」「それでは深すぎる。私は浅い方が好きだ」など、話が飛び交います。前から見た「深さ」だけの話で良いのでしょうか? 答えはNOです。
 まず、何かを変えるときには他を固定して考えないとよくわからなくなります。尺八を口に当てる一切の条件を同じにしたまま、歌口を深くすると、歌口の深さの部分も開口面積に入りますから、まずピッチは高くなります(開口面積が大きい=カリの状態)。従って、歌口の深い楽器は顎あたりを落として、歌口の両サイドの隙間を少なくして、つまり、両サイドに開いていた開口面積部分を減らして、ピッチを同じにしています。
 こうして調整した歌口は、歌口両サイドが唇に接する圧力が高めになり、唇の緊張を高めることなく息の圧力を上げることで豊かで大きな音を出すことが出来ます。また、逆に小さな音も出せます。つまり、ダイナミクスを大きく取ることが出来ます。

●歌口エッジ部分の幅(C)について
 単純に考えると幅が広いとエアリードの幅も大きくなり、ブレスの量も必要ですが、大きな音を出すことが出来ます。逆に幅が狭いと、大きな音は出ません。

●開口部の大きさ(D)について
 開口部の直径を大きくすると、歌口両サイドと唇が接する圧力を同じにするためにはメル必要があります。従って、顎あたりの角度が同じでも、開口部を大きくすると顎あたりが高く感じます。また、歌口の深さも見た目より浅く感じます。

 このように、歌口各部同士の関係は密接に絡んでいますので、単に深いとか浅いとか、顎あたりが高とか低いというような簡単な問題ではありません。それに個人差による口元の形状も関係します。求める音質による口の作り方との関係もあります。

古い尺八と新しい尺八

 徐々に図(B)のような歌口の形状が一般的になりつつありますが、専門家の間にはまだ懐疑的な人が多いようです。昔はそんな関係は分かりませんでしたから、竹の切り口はきちんと直角に切りました。ただ、顎に当たる部分はとがっていると痛いので丸くしています。その形状が今もそのまま残っています。専門家はそういった古い歌口に慣れている人がほとんどで、私が今教えている尺八の先生や尺八製作者もほとんどがそうであると言えます。
 そういう人達にとって、歌口が深くて顎あたりが落ちているような尺八は「慣れていない」ので「嫌い」でしょうし、新しい尺八だからということで「古典には向かない」などの言葉が流布されます。
 確かにこのような歌口は、尺八を構えたときから唇と歌口はかなりぴったりとくっついていますから、メリの場合、それまでのような大げさなアクションを加えると、いきなりバランスが崩れて鳴らなくなってしまいます。従って「メリカリが効かない」などと思われがちですが、開口面積を狭くすることが「メリ」と分かっていれば、歌口の深さをわずかに浅くする程度のアクションでメルことが出来るということにも気がつくでしょう。
 この感覚はきっとハンドルの遊びが大きい普通車に慣れた人が、遊びの少ないレーシングカーを運転したときに感じることと似ているでしょう。そして、「タバコを買いに行くのにわざわざレーシングカーで行く馬鹿はいない」と言った人もいますが、ステージで演奏することがタバコを買いに行くことと同じとは思えません。言い換えれば、タバコを買いに行くときに使うような車でレーサーがレースに出ていた…というのがこれまで、と言っても良いのではないでしょうか?
 つまり、ほとんどが素人さんだから、その需要に合わせて供給していたのがこれまでなだけで、今後は「プロ仕様」が標準となってくるでしょう。そして、プロの演奏法を習うことが「尺八を習う」ということに変わってくるでしょう。
 「古い物で今残っているのは、良いから残っているのだ」こういう言葉もよく聞きます。確かにそれはそうだろうと思います。しかし、何の検証もされないまま残っている物も少なくありません。その一つが歌口なんです。
 音楽は合理性だけで出来あがるものではありません、しかし、合理性がなければ発展もありません。