目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第33回】読者の質問2 琴古流と都山流、楽器の違い 2012年9月(308)号

【Q】第26回は「琴古と都山」がテーマでした。三塚先生によると、両流派の竹の製作上の違いはないかのようです。しかし、私には音色など、音を聴くだけで両者の違いが分かります。洋楽をやっている私の連れ合いも、都山の尺八を聞き分けることが出来ます。何故なのでしょうか?(福岡県・上津原鈴々)

【A】本当に琴古流と都山流に、尺八としての違いはないのでしょうか?
 都山流はそれまであった尺八とは一線を画すような「現代的」な尺八集団として設立されました(都山流の出現で、それまであった小さな流派はまとめて琴古流と呼ばれるようになります)。尺八そのものも、初代北原篁山と寺田寅彦(理学博士)との共同研究など、より進化させたものにしようと努力がなされました。指孔を大きくして、位置も若干下にして、ピッチと音量の改善を図っています。楽器的構造も節を抜いただけの状態から、次第に地を置くようになったそれまでの製作法を、更に発展させ、単純化し、ついには型を作って石膏を流し込んで均一な性能の楽器を作る方法まで開発しました。
 見た目にも大きな違いが出来ました。それまでの歌口補強部が、バチ型(△)が主流であったのに対して半丸型になり、顎あたりの部分も、それまでは直線的であったのに対して都山では丸くしました。根の処理もどことなく古風でコンパクトな感じの琴古に対して、根を大きく開いて主張を持たせました。
 たしかにこの時代の尺八は、明らかにそれまでのもの(琴古流)とは異なっていました。これら都山流の尺八は大量に全国に出回り、琴古流の製管士にも情報はすぐに伝わり、良いところはどんどん真似されて行きます。
 都山流の人口増大に伴い多くの製管士は都山流形式の尺八供給も行うようになります。
 1960年代に起こった尺八ブームもあり、いつしか「何々流専属製管士」はいなくなり、両流派の尺八を製作するようになり、以後作られた尺八は、中味は同じでデザインを変えただけの尺八となってきたのです。従って製管士は現在「作り分けてはいない」と言うのです。

演奏の「癖」の違い

 さて、それなのに琴古流と都山流の人の演奏の違いを何故聞き分けられるのか? それは楽器の違いではなく、演奏の違いを聞き分けているからなのです。
 都山流は徹底して琴古流と違う尺八を目指しました。箏曲などでは琴古流が本手をなぞっているときには、都山流は替え手をなぞる、ブレスの後には必ずと言って良いほど指揮権を勝ち取るがごとく、アウフタクト(弱起)を入れる。音の出だしは、琴古は「ツレ〜」のように、明らかな装飾を、それもかなり派手に入れますが、都山ではスリアゲるなど徹底的に違えています。
 こういったニュアンスの違いが、どんな音楽(新しい邦楽、歌謡曲、全て)にもすり込まれた「癖」として出てしまっているのが、流派への帰属意識の強い人の演奏です。だからすぐに流派が分かってしまします。
 音質の違いとしては、都山流が山本邦山氏の演奏を模倣することや、メッた状態からスリアゲる奏法の関係で唇を強く閉める傾向にあり、そのために口腔内が狭くもなりやすく、堅くて鋭い感じの音質になる傾向があります。琴古流は「ツレ〜」や、「ウ」などの発音を上級者に学ぶことで、比較的唇の締め付けが緩やかで、口腔内も広くなる傾向があり、音質も柔らかい印象になります。
 そういえば以前、島原帆山さん(故人間国宝)の演奏がテレビ放映されていましたが、口元がアップになったとき、なんと、演奏している尺八は琴古の歌口でした。また、善養寺恵介さんは私の工房で最も気に入ったものを常に使って頂いていますが、現在使っているメインの1尺8寸の歌口は都山形式です。
 このように、今皆さんが聞いている音の違いは楽器の違いではなく、演奏者の内面に存在している「音楽」の違いなのです。つまり、楽器はそれを鳴らすことで格闘するというストレスを極力排除して、演奏者の内面を外に表すための単なる道具でなければならないのです。琴古流の奏者がそれを吹くことで「都山の音だ」と思われてしまうような尺八がもしあったとしたら、それは楽器とは言えないでしょう。

箏の世界も

 実は箏も生田流と山田流に大きく分類されますが、現在使われている箏は全て山田流が開発したものです。山田流も生田流より新しい流派ですからステージ演奏に向いた奏法や音楽、そして楽器を開発しました。音量を増すために弦の張力を増す、その張力に耐えられるように全ての方向のカーブをきつくしました。
 その箏は生田流の人にも受け入れられ、それまであった平坦な張力の弱い箏は作られなくなって、今に至っています。全ての箏演奏家はいわば山田流の箏を弾いているわけですが、全てが山田流に聞こえる訳ではありません。これも、同じことですね。