目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第34回】技術編7 最速の音の立ち上げ(その1) 2012年10月(309)号

ヤバイっすね!

 「三塚さん! この吹き方ヤバイっすね、これ出来なきゃ絶対ダメですわ。ちょっと教えてくださいよ!」
 最近何度か私の工房(泉州尺八工房)を訪ねてくれて、その時にたまたまレッスン中だったところを見学してくれた国際尺八コンクール初代世界チャンピオンの岩田卓也さんの言葉です。「ヤバイ」についてはもう説明することもないだろうとは思いますが、元々の「悪い」意味から転じて、それほど「凄い!」という意味で使われています。
 世界一の座を獲得した岩田さんは一体何処に興味を持ったのでしょう? それは最速の音の立ち上がりを誇っていた岩田卓也さんが「自分より速い」と思う吹き方がそこにあったということなのです。しかも、その吹き方は実に単純で、私が初心者に最初に教える演奏法そのものなのです。
 実は、私は以前から多くの演奏家が音を出す瞬間にある種のテクニックを使っていることを感じていました。それがブレスの度に出てくることが、癖のように聞こえてしまうのです。
 小さな音の場合には軽くすりあげる。大きな音ではアタリのような装飾を加えたり、シュッというようなブレスを吹きかけたり様々です。それが尺八らしさと言えばらしさなのですが、最近多くなった「邦楽ではない音楽の領域」では、それが全てを壊しているように感じていました。私の「癖と特徴は紙一重。やめられないものは癖」という考え方はここから来ています。

基礎中の基礎!

 音の立ち上がりの早さとは、実は力やテクニックで無理矢理作り出すのではなく、効率の良い発音方法にのみ与えられるものなのです。つまり、弱音でも強音でもまたはゼロからの緩やかな立ち上がりでもなんでも、意志のままに自分の声のごとく音は立ち上がるのでなければ、最速の立ち上がりとは言えないのです。岩田さんはそこに気づき、演奏方法から尺八そのものまで変えると断言、現在実行しています。
 今回、その演奏法を現役のプロで活躍、しかも世界一の座を獲得した岩田さんが取り入ることには大きな勇気が必要なはずです。少しの間だろうとは思いますが、苦労は伴います。その危険をおしてまで変えようという演奏家を目の前にして、私自身「これが絶対に基礎なのだ!」と声を上げる勇気を持つことが出来ました。
 尺八の世界には「尺八を鳴らす」という最初にやるべき基礎が確立されていません。
 街の尺八教室は何々流の音楽を教えるところであり、最近の流派にとらわれない教室も楽しくカラオケを使うなどして音楽を楽しむ教室であって、その前にやらなければならない「音を出すことについての指導」はほとんどされていません。教えている先生自身がそのような教育を受けたこともないからです。私もそのような教育は受けていませんので、誰の責任でもありません。基礎は今から考案され、だめ出しされ、確立されて行くのだろうと思います。
 さて、そのKING岩田さんが自分の奏法として取り入れることにまでなった奏法とは!

パクパク奏法

 何とも情けない名前ですが、岩田さんが命名してくれました。実は何度となくこのコーナーで紹介している奏法です。
 尺八を利き手の中指と親指で挟むように支持して、歌口は下あごにしっかりと密着させます、そのまま下あごをパクパクと動かします。たったこれだけなのですが、実は多くの要素が同時に行われる要素を多分に含んでいるところがミソなのです。そして、これ以上単純化できないほどシンプルな奏法。アイシュタインが「自然界は三角形の定理のようにシンプルなはずだ」との信念で発見したe=mc2のような発音方法ではないかと思います。
 この、口をぱくぱくさせただけで「息を吐いて音が出る状態」と「息を吸っている状態」との二つの状態を交互に行うことになりますから、音を出す状態は口をぱくっと閉じるだけのワンアクションで完成出来なければなりません。
 こう言うと難しく聞こえますが、「ワンアクションで出来る口の状態」ですから難しい形ではないということなのです。難しい形だったら出来ないはずですから。口を閉じると言っても空気を吐き出すノズルとなっているのですから、完全に閉じるのではなく、必要なだけ開いています。これは空気がそこを通過していることですから、空気の束を唇で挟むことになります。閉じようとしたのですが、そこに空気の束があったので完全には閉じなかった。それが実はノズルとなります。
 空気を送り出す量はこれから出そうとする音のイメージによって決まります。つまり、声を出すのとまったく同じことになります。
 次回は写真などを使ってこの究極の基礎を解説していきます。