目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第35回】技術編8 最速の音の立ち上げ(その2) 2012年11月(310)号

今までの奏法は

 これまでの教則本などでは「口の作りかた」というように、あたかも口は固定しているものと思わせるような解説がほとんどでした。
 ノズルを固定するのはリコーダーと同じで、弱い音ではピッチが下がり、強い音ではピッチが高くなるばかりでなく、すべてを息の吐き出し方でコントロールするしかなく、立ち上がりの速度を変えることができません。そのために、静かな立ち上がりの代わりにメって音を出してから普通に戻すという「しゃくり上げ」や、「ムラ息」のような雑音を混ぜて立ち上がりを強調してしまいます。
 先日、世界チャンピオンの岩田卓也さんに、パクパク奏法を始めて1ヵ月でどう変わったか?を聞いてみました。
 「昔の演奏が恥ずかしいですね。しゃくり上げたり、ブシュってやるのは音の立ち上がりをうまくコントロールできていなかったからですよ。できるんだってわかったら不必要なところではやりたくないっすよね。できなかったからなんですよ。それにブレスが楽ですよ。それとピッチ。ピッチまで安定するんですね」とのこと。

パクパク奏法の原理と効用

 さて、「パクパク奏法」は何故立ち上がりのコントロールが自由で、しかもピッチまで安定するのか?
 パクパク奏法では、口を開けて口から息を吸い、口を閉じ始めるのと同時に息も出し始めます。この動作をゆっくり行った場合、広いノズルから大量の空気が出ることになります。まだ圧縮されずにスピードも速くない息の束がエアリードを起こし始めます。そのままノズルを狭くしてゆくと、息は次第に圧縮されてスピードも速くなります。
 この過程は無音から音が現れはじめて、ある程度の音量に至るまでのクレッシェンドとなります。この状態はマニュアル車でエンジンの回転を上げつつ、クラッチをゆっくりつなぐ動作に似ています。
 この、息を出すのと同時にノズル(口)を閉じ始め、次第に規定のノズルの大きさとブレスの圧力になるまでの動作を速めてゆくと、次第に立ち上がりの速い音になります。
 音の終わりでは、ほぼ同様の感覚で音を消すことができます。つまり、どこで音がなくなったのかわからないようなディミヌエンドが可能になります。

 口をぱっと閉じると、今出そうとしていた空気が口腔内で急に圧縮されて吐き出されるため、息を吐き出す力やスピードをそれほど上げなくても爆発的な発音が可能です。
 口を固定するのではないので、ある程度ブレスの勢いに唇が持って行かれますから、強い息では歌口に唇が近づき、弱音では離れるということが自然に起こり、音の強弱でのピッチ変化が少なくなります。
 車がクラッチを持ったことでなめらかな走り出しや、エンジンを回しておいて急にクラッチをつなぐことで急発進ができたりと自由な走行を可能にしたように、パクパク奏法は、それまで車がゴーカートのようにアクセルだけだったところに「クラッチ」を搭載したような変化をもたらします。
 しかし、これは何も車をまねしたのではなく、人間の声の出し方そのものなのです。

口を声帯のように動かせば

 息を吸うときには声帯は開き、声を出すと閉じて振動しますが、静かな声から大きな声にクレッシェンドしようとすると、最初はハスキーな声で空気を大量消費しながら、次第に声帯を閉じ、効率よい声に持って行きます。声を消してゆくときもこの逆の道をたどります。
 このブレスと声帯の関係をそのまま、口で表現できれば歌と同じように尺八が演奏できるはずです。吹くことばかりを先に考えてしまいますが、パクパク奏法で行う口のあり方は、どちらかというと息を吸うための口です。
 息を吸ったらそのままの状態で吐きます。尺八を「吹く」ので「ふう」と考えてしまうと「う」ですから、口の中が狭くなり、口を突き出してしまいます。それは間違いです。強いて言うなら、「ま」の発音練習の時に行う「ん〜ま」の形で、「ん」は音を出しているとき、「ま」は息を吸うときの状態に似ています。「ん」は鼻から息を出すので口は閉じていますが、その状態で口に息を送ると吹いている状態に近くなります。