目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第36回】技術編9 最速の音の立ち上げ(その3) 2012年12月(311)号

簡単なパクパク奏法

 パクパクするためには、しやすい顎の位置や尺八の角度があります。それは上下の歯の位置を揃えるように顎を前に出した状態であり、はき出される息の向きは今見ている方向です。そして、尺八の舌面(前面の斜めにカットされた面)が息の向きと平行になります。その場合の尺八の角度は写真@のようになります。
 真っ直ぐ前を向いた場合には、かなり管尻が高いところにあることが分かります。尺八はエアリード楽器ですから、舌面と平行に息がはき出されることは理想的で、この息の向きはエアリードを起こすのに最適の角度です。しかも、この角度は下の手の親指と中指で挟んでいる部分の中心を支点として、写真Aのように歌口が顎のパクパクに伴って上下するだけの、非常に簡単な動きになります。
 今見ている方向に息を出すことは、ろうそくを消したり、ゴミを吹き飛ばしたりと様々に経験済みで、誰でも出来ることであり、息の方向についてはわざわざ特別な訓練をする必要がありません。
 また、この顎の状態は、人間が大量に息を吸おうとしたときに、自然にやっている状態でもあります。激しい運動の後や、水に潜るとき等人間は本能的に息を吸い込みやすくするために、顎を少し出します。こうすることで、口の中や喉が広がり、空気の移動がとてもスムーズになることを知っているのです。
 この状態が良い声や良い音を出すことは、歌はもちろんのこと全ての管楽器に共通の認識です。良い音や声のためにはブレスもまたスムーズで簡単なものなのです。
 これまでの指導書などでは「音を出す」ことばかりを先に考えがちですから、息を吸う時のスピードや勢い、タイミングについてはほとんど触れられていません。しかし、音はテンポや音量、音質、勢いなど音楽に合わせて様々であり、その音のためのブレスがあり、最低限テンポに合わせて息を吸います。
 つまり、小さな鼻の孔からだけでは限られた時間内では吸いきれないことがほとんどです。鼻からも吸いますが、口から吸うことが中心となることに議論の余地はありません。
 パクパク奏法とは口から息を吸い、そのまま折り返して音を出すという非常に合理的で簡単、単純な演奏方法です。口の中の大きさや喉の広さだけではなく、尺八の角度やスムーズな音の立ち上がり、安定したピッチなど全てが手に入る理想的な奏法と言えます。
 この奏法はとても簡単に音が出ます。簡単に音が出るということは、「思いっきり息を吸って一生懸命はき出さなければ」などと考えなくても音が出ますので、普通の呼吸、つまり腹式呼吸が自然に出来るというメリットもあります。

練習方法

●尺八を当てる位置
 「ん〜ま〜」の「ん」の状態で声を止めて尺八を写真の位置に当ててみましょう。そのまま息を吐き出すと音が出ます。この場合、唇とその下の部分は尺八の歌口と歯と歯茎などに挟まれています。これらを全てセットにしてパクパク動かします。
 難しいところと言えば、この「セットにして動かす」こと…かも知れません。単純に顎の骨を上下させるだけのことなのですが、特に唇を器用に動かして尺八を鳴らしていた人にとってはとても難しいことのようです。
 すでに音が出る方も、パクパクしながら息を吸い、すぐに吐き出すことで音を出す。これをテンポ170程度で練習すると、自然とパクパク奏法になってきます。つまり、この辺の速さになると、唇をいちいち動かしていたら間に合わなくなり、フガフガという音になります。「そんな速さで尺八を吹くことは無い!」そう考えてしまうと発展はなくなります。ゆっくりした曲でもぎりぎりまで音を伸ばし、一瞬の間で息を吸い、次の音を出すことはいくらでもあります。