目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第37回】尺八の基礎を考える 2013年1月(312)号

気持ちよく音が出せたら

 皆様あけましておめでとうございます。
 なんとこのコーナーが始まってから4度目の新年を迎えました。尺八は特殊な訓練の積み重ねではなく、誰でも持ち合わせている基本的な能力で演奏が出来るのではないのか? たったそれだけのアイディアで今まで続いてきました。読者の中には「ピント外れなことをいつまで続けるつもりだ」と嘆いている方もいると思います。
 確かに、山に分け入り、自分で採取した竹で楽器を作り、吹くという尺八の原点のようなことを楽しんでいる方や、うちこそが本流との信念で演奏したり教授したりしている、これまでの邦楽界での標準的な方々にとっては読むに足らない内容だっただろうと思います。
 私は、邦楽という世界から離れたところで遠TONE音というチームで演奏したり、尺八の製造販売を行いながら、一般の人達の考え方や感じ方を知り、また、尺八を始めようとしている人や長年習っているのに上達しないと悩んでいる人達などに接しながら、今普通に行われている教授法に矛盾を感じてきました。
 「まず琴古流と都山流があって…」とか「箏や三味線と一緒に演奏する三曲などの世界と民謡や歌謡曲などを演奏する世界があって…」などと説明することにも、とても違和感を覚えます。細分化された尺八ジャンルの前段階に「基礎」があるだろうとの考えは自然とわき起こってきます。
 気持ちよく音が出せたなら、いろいろな曲にチャレンジでき、その中に気に入ったジャンルがあるならそこに進むことができます。そして、何処の門をたたいても基礎をきちんと教えてくれて、その人に合ったジャンルの教室などを紹介してくれる、そんな世界だったらどんなに尺八人口は増えるだろうか…とも思います。

基礎の上に

 どんな楽器にも共通なことは気持ちよく音を出せることであり、そのための最も簡単な発音方法が基礎となり得るだろうと思います。もちろん専門家になるにはそんな簡単な方法だけで足りるはずはないでしょう、しかし、基本は同じはずです。
 その基本や基礎が固まれば、それに合わせて尺八の歌口や内部構造も集約されて行くはずだと考えています。その基礎の上に、より研ぎ澄まされた各流派の特徴があれば、もっと多くの聴衆に支持されるでしょう。
 連載してきた「パクパク奏法」は初心者のための基礎のつもりで考えたものでしたが、岩田卓也さんに後押しされ、あえて批判を覚悟で連載を続けてきました。実は岩田さんだけではなく、例えば先月号〈Report〉に掲載されていた松村湧太さんも、芸大1年生の時に、内吹きを外吹きに変えたいという希望をパクパク奏法でかなえました。

外吹きにすべき理由

 狭いところからはき出された空気は進むにつれて広がる特性があります。どんどん狭くなる尺八の管内に空気を送り込むことは、尺八の外側にはき出すよりも多くの力を要します。パクパク奏法はまだ狭くなっていないノズルから空気をはき出す奏法でもあり、かなり弱い気流のうちに音が出始めます。このときに起こっているのは力のいらない外側に気流を作って鳴らす外吹き状態です。
 パクパク奏法を行うと自然と外吹きになります、内吹きを保ちながらパクパク奏法を行うことは出来ません。外吹きは今や尺八の常識になりつつあります。外吹きに統一したいという願いは、初心者にとっても簡単な発音方法であるという他に、外吹きと内吹きとで楽器の適した構造が異なるために、製作する側としてもぜひ統一してほしいという理由があります。
 統一するなら合理的理由が必要となります。内吹きは乙の音域でしか起こらない特殊な現象です。従って内吹きであっても甲の音域では外吹きとなり、甲乙でピッチに差が出るという不都合があり、これに統一する合理的な理由は見つかりません。従って外吹きを対象に尺八を作ることが尺八の普及にとって重要なこととなるでしょう。

空中に消え入る音を

 簡単に鳴るということは素早い立ち上がりだけではなく、音を消す際にも効果を発揮します。息を吸うために開けた口を閉じる動作と息をはき出す動作を同期させるパクパク奏法は、音を出すときだけではなく、音を消すときのブレスと口周りの筋肉の使い方を自然に学ぶことが出来、空中に消え入るように音の最後を消すことも簡単にできるようになります。
 現在人気急上昇の大河内淳也さんも「音を上手く消せない」という悩みをこの奏法を取り入れて克服し、その結果演奏家として認められるようになったひとりです。初心者からプロまで多いに役立つ「パクパク奏法」から発展した様々な情報を今後も取り上げていくつもりです。
 今年もどうぞよろしくお願いします。