【新】目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第8回】尺八の定義を問う! 2020年3月(398)号


尺八の構造的な違い

 今月は練習をちょっとお休みして、最近ちょっと気になる話題を。
 「尺八は中国から伝わってきて、最古の物は正倉院にある6孔の短い物」とか、「尺八は竹の節を抜いて指孔を開けただけのシンプルな構造」とか、「塩ビパイプ(水道管)で作った(尺八もどきの)楽器は竹製の尺八と変わりない」とか……尺八の構造を研究してきた僕としてはなんとも歯がゆい想いなんです。
 今のところ学術的(?)に「尺八とは竹の端を外側から削って鋭くして歌口とした物」が尺八と定義されているようです。そういう意味では正倉院の物も、塩ビパイプで作った物も、歌口は同じなので尺八と定義されるでしょう。
 しかし、江戸時代の中期に忽然と現れたいわゆる普化尺八と呼ばれる竹の根の部分を使った尺八(現在の尺八)には、それまでの「歌口だけ同じ尺八類」とは大きく異なったもう一つの特徴があります。それは内部構造です。

普化尺八はそれまでと何が違うか

 正倉院尺八も、普化尺八の前に流行っていたという一節切ひとよぎりも竹の中間部分を使っています。尺八に似ているといわれるケーナもそうですね。世界中の笛類は竹とか葦の中間部分を使った物で、内部構造としては水道管のようなストレートパイプです。
 今、日本で尺八と認識されている竹製の物は、1700年代に忽然と現れたといいます。そして、それまでの尺八類と決定的に違ったのが根の部分を使ったことなんです。これは笛類にとっては一つの事件でした。
 竹は節と節の間が空洞になっています。その空洞は根に近くなるに従って細く狭くなって行き、地下に埋もれている部分には空洞がなくなります。これを使ったことで、それまでの尺八類とは全く違った構造となりました。
 つまり、歌口から下に向かって細くなるテーパー構造と、地下茎部分の空洞がない部分をくりぬいたために出来た、外側に向かって広くなるテーパー構造が組み合わさったダブルテーパー構造になったのです。この構造こそが普化尺八と、それまでの尺八類の決定的な音質の違いを生み出したのです。

テーパー構造だからこそ

 独特の抵抗感の強い、密度の高い音はこのテーパー構造によって作られています。水道管で作った簡易的な尺八の音が竹製のそれに比べてみると、よく言えば明るく、悪く言うと薄い感じになるのは、内部が上から下までストレートのパイプだからです。
 竹の根を使うことで偶然テーパー構造になった尺八の音は暗い音と言っても良いのかもしれません。低音に行くに従って密度が高くなるこの音を聞けば、本曲のような、どことなく暗い、しかし、心の内面を表すような音楽が出来るのは理解できます。もしも、この内部構造を持たずに竹の中間部分を使った、今の水道管で作った尺八のような構造だったら、あの古典本曲は生まれなかったでしょう。この根の部分を使うという事件が現在の尺八の大きな特徴となっているのです。その意味で尺八は純粋に日本製と言えるのです。
 しかし、この特徴が特殊な事情も生み出してしまいました。

製作が難しくなったことで

 水道管で作った笛が鳴らないなどということはあり得ません。誰が作っても一応音は出るのです。しかし、一旦内部をテーパー構造にしたとたんに、そのテーパーに狂いがあると音さえ出ないという現象さえおこってしまいます。つまり、製作を極端に難しくしてしまったのです。また、ストレートのパイプなら、精密に作った長いパイプをカットして使うことが出来ますがテーパー構造は、場所によって内径が違うので、それ専用に作らなければなりません。
 このような事情から、そのほかの笛類に比べて、内部を精密に整形しなければならず、手間が掛かることから高価になり、高価な割に性能面で問題のある尺八が安易に作られ、それらは水道管で作った尺八よりも劣ると揶揄されるのです。 このまま放っておくと、もしかしたら本当に歌口さえ同じなら、内部構造がストレートの物が尺八と定義されてしまうようになるのではないかと危惧されます。
 私がメタル尺八を作った根底には、こうした尺八の定義を明確にしておきたいという気持ちがあります。機械作りとなり測定しやすくなることから、コピーされて贋作が出回ることも危惧されていますが、それ以上に日本で作られて日本で発展させてきた現在の尺八を定義しておきたいからなのです。