【新】目から鱗の尺八上達術 −あなたの努力は報われていますか?−

【第9回】息の向きを調整する 2020年4月(399)号


 連載第3回目の「ストローを使った簡単上達法」がネット上で話題になっています。きちんと空気の流れを作ってから、その空気の流れに尺八の歌口をもって行く、というやり方が好評のようです。
 でも、ストローの吸い方のところで、「僕はこうやって吸うんだ!」とカッパ口で真下にストローをくわえて吸う小学生の話もあり、百発百中、誰でも同じことになる方法というのはないものです。私がなかなか教則本を出さないのも、その辺にまだ不安があるからと言っても良いかもしれません。

「シーッ!」の形から

 さて、その後多くの人に実験して、効果を上げている息の向きを調整する方法を紹介します。
 ストローから息を吸った時の状態で息を吐くというのはそのままです。その状態で口に指を当てます。ちょうど「静かに!」というときのように人差し指を立てて、口に当てます。「静かに!」をする時は通常「シーッ」と言って歯を閉じてしまいますが、ここでは「シーッ」と言うわけではありません。指の動作だけで、「ストローから息を吸った時の状態」でやってください。
 人差し指を口に当てると上唇の内側の歯を感じます。「唇を挟んで歯に当たる」と言っても良いかもしれません。その上の歯に当たった感じ、つまり歯に当たる圧力が同じになるように下あごを出して調整します。一般的には下あごを少し出すことで人差し指に上下の歯が当たる圧力が同じになります。
 ストローから息を吸った時の状態は唇が歯にある程度の力で張り付いた状態です。「フーッ」と吹く時とは全く違った状態ですのでよく観察してみてください。この歯に唇が張り付いた状態で、指を当てて上下の歯が指に当たる圧力を同じになるように下あごを出して調整すると、息は指に対して直角に進みます。
 この状態が最も簡単に音が出せる状態です。こうしたときに口元と尺八の関係は写真のようになります。

顎を引くと…

 ピッチが低いので尺八を直して欲しいと言う人がよくいますが、多くの場合、顎を引いて吹いています。実は顎を引く吹き方は顎によるメリの手法です。つまり音程を下げるための方法です。
 小学生に尺八を与えると、ほぼ全員、顎を引いてプーッと一生懸命吹こうとします。たぶん人間の自然な感覚なのでしょう。なので、「そのうち音は出ます。まず曲から練習しましょう」などと言われて教わってきた人は、ほぼ間違いなく顎を引いています。顎を引くメリの奏法は音程が低くなるばかりではく、音量も小さくなります。
 古い時代の楽器はそうした奏法に合わせて音程を上げた物も多くあります。時代とともにより合理的な奏法に合わせた楽器となっています。今後はより合理的な考えの基に奏法、楽器の両面から尺八を考えて行かなければ尺八の発展は望めないでしょう。

 合理的な考え方が「西洋化」であり「日本の文化の破壊」だという人もいるようですが、それは大きな間違いです。伝統とはこんこんと湧き出す泉のように常に革新的であり新鮮であろうとする行為をいうと思います。湧き出すことをやめてしまい、たまった水を腐らないように守ることは伝統とは言わないでしょう。
 世界中にはいろいろな民族楽器があり、オーケストラに入っている楽器は早くから目的を持って改良、改造されてきました。中でもバイオリンは今から300年も前にストラディバリによって最高の楽器、つまりこれ以上改良の余地がないといわれるまでの完成度を誇っています。現在製作されているバイオリンはほぼこのストラディバリウスのコピーです。
 尺八はちょうどストラディバリが最高の楽器を完成させた頃に竹の根の部分を使う今の尺八の形が出来ました。それから今日まで民族楽器としては非常に希な例として進化し続けています。そしてその進化の最先端の尺八を求める演奏家もいれば、進化の過程にあった地無し管などを楽しむ人もいます。
 最先端の尺八で最も古い時代の音楽を今に生かそうとする人もいます。
 進化の過程にあった尺八で新鋭的な音楽を作り出す人もいます。
 どれかが正しくてどれかが間違いだなどとは言えません。この幅の広さが、今、世界中に尺八ファンを増やし続けていることは間違いないのです。